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迷子のステラ 

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『迷子のステラ』 文:冴羽彌生


 

ブロッサムベリー祭前夜祭では、ブロッサムベリー学園の生徒たちは、チャペル前の広場でキャンドルサービスを行って、その後聖歌を歌いながら、ブロッサムベリーフォレストの周囲を時計回りに一周します。深々と11月も終わりに近いブロッサムベリーは凍えるほど寒い夜に包まれます。寒さをしのぐ為に、後夜祭では学園から制服として支給されるフードのついた白いローブを纏う慣わしです。それは白いビロード製で、生地は起毛が長めなのでとても温かくて、いつまでもくるまっていたいと思うほど肌触りが気持ちいいのです。それに赤でアクセントになっている、ボタンの周りの縁どりと胸の高さのリボンが十字架になっていて、ふわふわのこれも赤い袖飾りが可愛くて、小さい頃のステラの憧れでした。

「ステラも白いローブが着たい!」

 そう言って小さいステラはブロッサムベリー祭の間、いつもクローク担当のシスターを困らせていました。それは中等部にならないと支給してもらえないかったのです。シスターの記憶では、ステラはもう、3才のころからそんな子だったそうです。

今年の前夜祭は、初等部、中等部、高等部、それと大学も授業が午前中で終わって、ランチの後、すぐにクッキーやパイ作りのお手伝いが、忙しくて、慌ただしくしていたので、ステラは、そのローブを取りに行くのが遅くなってしまいました。
息をはずませてクロークまで走ってたどり着くと、

「もう最後の一人よ。集合時間まで30分。急いで支度しなさいね。」

 と急かして言いながら、シスターはハンガーにかかったビニールケースに入った最後のローブをくれました。

結構な重さがあるローブを持って廊下を小走りし、階段を一段抜かしで駆け上がると、寮の部屋に戻った時にはさすがに息が切れ、ぜーはーしてしまいます。ビニールケースからローブを取り出すと、ステラはベッドに腰かけて一息つきました。

「ほんとにすべすべしてて気持ちいいぃ」

 肩にローブをかけ、袖をマフラーのように頬のあたりまで巻き付け、裾を持ちあげて顔を埋めていると、幼いころの記憶が甦ってくるようです。

 

─ それは、おそらく5歳ごろの記憶 ─

幼い子どもたちは、夕方、暗くなり始める頃に始められるキャンドルサービスでは、最初に大きいお姉さまたちと一緒に、大きなキャンドルから、みんなの小さな手許のキャンドルに火をつけた後、最初のお祈りと聖歌を合唱したら、あとは部屋に帰らないといけませんでした。まだ小さいのですぐに食事をとり就寝の準備をするきまりだったのです。

けれどその日、小さなステラは食事をとったあと、こっそり外に出てキャンドルサービスの続きを一人で見に行ってしまったのです。

もう既にお姉さまたちは列になって歌いながらブロッサムベリー・フォレストを廻る道に入るところで、ステラは見つかると怒られると思い、木の陰に隠れながら、そろそろと着いて行くことにしました。 お姉さまたちは、ゆっくりと歩いているように見えるのに、やはり小さなステラの足ではだんだん引き離されてしまいます。お姉さまたちの後姿が遠くなりそうなので、走って追いつこうとしたら、小さなステラは木の根っこに足をとられて転んでしまいました。

顔を上げるとお姉さまたちの姿は既に見えなくなって、聖歌の歌もだんだん霞んでいきます。道端にぶら下がっているカンテラの明かりが近くに灯っているので、森の中は真っ暗ではないですが、木々のざわめきの音のほうが大きく聞こえ、闇が一段下に降りてきたような気がさえします。 起きようとすると身体に痛みが走ります。どうやら、肘と膝をすりむいてしまったようです。痛くて起き上がれず転んだまま横たわっていると、寒さが下から上がってきて、闇もまた一段と濃くなってきた感じがします。傷がだんだん痛くなりじんじんしてきて、小さなステラはついに泣いてしまいました。

何分かたった頃でした。落ち葉を踏みしめるような音が聞こえてきます。顔を上げ音のほうを見ると、ひとりの白いローブを来たお姉さまがステラのほうに、静々とやってきました。

「どうしたの?お名前は?」

「ステラ…蒼穹ステラ」

「そう。ステラちゃん、泣き声が聞こえたからなにかと思った。」

というと、ステラを抱き起してくれました。

「あら大変。身体がすごく冷えてる。」

 そして、憧れの白いローブを脱いで、ステラの身体をくるんでくれました。
ローブのすべすべした感触がとても気持ちよくて、とても安心した気持ちになりました。

「おねえちゃま、どうもありがとう。」

──と見上げると、え?鏡?とふと思います。

「なぁあんだ、おねえちゃまって鏡だったのね。」

と思いもう一度繰り返す。

「鏡おねえちゃま、ほんとうにありがとう。」

覗き込んでる鏡はにっこり笑っています。
しかし今にも吹き出しそうな顔になっています。

あれ—— なんかへんだ。

「ステラちゃーん、寝ぼけてるの? オネエちゃまって誰よ?」

「わっ!だれ?」

 ステラが驚いて飛び起きると、鏡がステラの顔を覗き込んでいます。いつものくりくりした両眼で。

「夢でも見てたの?ステラがうたた寝なんか珍しいわね。早く支度しないと始まっちゃうよぉ。キャンドル・サービス。迎えに来たのにノックしても出てこないんだもん。そしたら、スヤスヤ子どもみたいな顔して夢の中〜 なんてどゆこと?早く着替えないと!じゃあ先に行ってるから。」

ステラは急いで着替えると、チャペル前の広場まで走っていきました。鏡がこちらを向いて手を振っているのを見つけると、あの時、助けてくれたお姉ちゃまは、本当に鏡だったのかもしれないな—— 時間と空間が歪んでいるブロッサムベリーではそんなこともあるかも。と思いました。

このお話は、おしまい。